直腸脱とは
粘膜だけでなく、筋肉を含む腸の全層が反転して飛び出します。 骨盤底筋および肛門括約筋の緩みや損傷、便秘などに伴ういきみなどが原因で発生します。
加齢に伴う組織の脆弱化が関係しますので、高齢の女性に生じやすい病気です。 また、先天的に骨盤内の大腸の固定が緩いことも原因となりますので、若年者にも生じます。
残念ながら、自然治癒は期待できず、骨盤底筋体操などを頑張っても治ることはありません。 治療には必ず手術が必要となりますが、全身麻酔が可能であれば、腹腔鏡による直腸吊り上げ固定手術が最も再発が少なく、また、最も高い術後のQOL(生活の質)が得られます。
直腸脱を治せないことはほとんどありません!
筆者の個人的な経験では、これまで、治療を希望して受診された患者さんの99%以上が根治しています。
もし、他で「治すのは無理」「様子を見ましょう」と言われた方でも、治せる場合がほとんどです。
治療せず放置すると脱出が次第に悪化し、肛門括約筋が引き延ばされて肛門機能が低下してしまいますので、早めに手術を受けることが望ましいです。
もし、受診先で「このまま我慢しなさい」と言われたら、「そんなことはないと書いてありました!」とこのサイトの内容を示していただいて大丈夫です。
- 内痔核(いぼ痔)が脱出する 脱肛 とは異なります。脱肛は座薬による治療や排便習慣に気をつけることで改善します。
- たるんだ直腸粘膜が肛門からはみ出す 直腸粘膜脱 とは異なります。これも自然には治りませんが、治療する場合は肛門側から切除します。
- 骨盤底筋体操により、直腸脱術後の肛門機能は改善します。
主な症状
- 肛門からなにかが飛び出す感じ
- 肛門の圧迫感や膨隆
- 便失禁
- 便秘や排便障害
- 排便時の圧迫感や痛み
初期症状ないし発症前の症状として、腸が降りてくる感じと、いきんでもすっきりしない残便感などがあります。
原因
- 妊娠・出産などによる骨盤底筋群の緩みや損傷
- 高齢に伴う筋肉や組織の衰え
- 先天性の骨盤内臓の固定不良
- 大腸の過長
- 過度な腹圧
- トイレで長時間いきむ癖のある方に生じやすいようです。
- 慢性便秘または下痢
- 脊髄または神経の損傷
自然経過 ~ほっとくとどうなる?~
成人では、直腸脱が自然に治癒することはありません。 ほとんどの患者さんは、時間の経過とともに症状が悪化します。 治療には必ず手術が必要です。 骨盤底筋体操で治癒することはありません。
ただし、小児の場合は、原因を治療すると治る可能性があります。 たとえば、硬便、下痢、または寄生虫感染症にかかっている場合、原因疾患の治療により骨盤底筋へのストレスが軽減され、成長に合わせて筋肉は修復されます。
直腸脱になったと感じたら
直腸脱になったと感じたら、早めに専門医の診察を受けることが重要です。
その際、どのような治療を受けるかで、その後の人生における生活の質 (QOL) が大きく影響を受けます。 直腸脱の治療法は専門医の間でも大きな違いがあるからです。 ガイドラインが策定されてはいますが、そこで推奨される腹腔鏡手術を施行していない医療機関も多いですし、術者の技量にも大きな違いがあります。 腹腔鏡手術にも様々な術式があります。
ほとんどの場合は、慌てる必要はありませんので、しっかりと情報を収集して治療にあたってください。 本サイトの情報を活用していただけると幸いです。
なお、本サイトには筆者の個人的な考え方が色濃く記載されており、これはあくまで一介の臨床医としての意見ですので、その点をご理解の上で情報をご利用ください。
直腸脱と類似疾患
直腸脱
ひだは同心円状。 このサイトで扱うのはこちらです。
鑑別診断
直腸脱とよく似た病態に、粘膜脱と脱肛(全周のいぼ痔)があります。 それぞれ治療法が異なりますので、鑑別が重要です。 典型的な外観を以下に示します。
粘膜脱
はみ出している感じです。 脱出長は1~2cm程度。
脱肛 (全周のいぼ痔)
ひだはなく、しわは縦方向。 ザクロ状など。
解剖と病態
直腸脱は女性に多い疾患ですので、ここでは女性における病態をシェーマで示します。
正常な女性の骨盤
直腸脱
深い骨盤底や直腸仙骨固定不良などの先天的な要因に加えて、若年者では排便習慣と精神疾患、高齢者では老化と出産による骨盤底筋の脆弱化が関与しているとされています。
直腸がずり落ちてくる滑脱や、反転した直腸が上部から降りてくる重積によって直腸脱となるわけですが、明瞭に分類されるものではなく、両方の要素が存在する場合が大半です。
直腸粘膜脱
たるんだ直腸粘膜がずり落ちて肛門からはみ出した状態です。 前壁側の粘膜が脱出する場合が多いですが、全周が脱出する場合には、直腸脱と区別が難しい場合があります。
また、直腸脱の前駆状態として直腸粘膜脱になる場合がありますし、実際は直腸脱なのに外来では全層脱出が確認できず、直腸粘膜脱と判断してしまうこともありますので注意が必要です。
脱肛
全周性のいわゆるいぼ痔が脱出した状態です。 典型的には、3方向に大きな部分があり、それらがつながった形状となります。
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